神経性無食欲症


 一部、著者自身の整理の都合のため、および参考のために、研究者や報告者をつけてありますが、めんどうなので、正確な参考文献リストなどはつけてありません。


[ 物質使用障害、摂食障害とは、DSM-IVの用語解説]

 アメリカの精神障害診断マニュアル、DSM-IVでは、アルコール、薬物の乱用(Substance Abuse)と依存(Substance Dependence)を物質使用障害(Substance Use Disorders)と言います。

 またDSM-IVでは、摂食障害(Eating Disorders)は、神経性無食欲症(Anorexia Nervosa)と神経性大食症(Bulimia Nervosa)、特定不能の摂食障害(Eating Disorder Not Otherwise Specified)に大別されます。神経性無食欲症と神経性大食症を区別する指標は、基本的には正常最低限体重を維持しているかどうかです。摂食障害に関しては、ここでは、拒食症、過食症という簡便な用語を原則的に使用します。


[ 摂食障害と物質使用障害の罹患率 ]

 一般人口中の摂食障害と物質使用障害の罹患率は、それぞれ、2.5%と3% (Hsu, 1996; Myers et al., 1984) ですが、摂食障害者では、物質使用障害が25.7%(一般人口中の9倍)に、物質使用障害患者では、摂食障害が16.3%(一般人口中の5倍)にみられます。


[ 摂食障害と物質使用障害の合併 ]

 ある研究(Holderness et al. 1994)では、過食症患者の22.9%が、アルコール乱用の診断基準に合致しました。

 ある摂食障害の外来患者の調査(Wiseman et al., 1999)では、ちょうど半数に物質使用障害がみられ、そのうちの65%では摂食障害を先に発病、35%では物質使用障害を先に発病していました。

 物質使用障害は、拒食症と比較して過食症により多く合併します。また拒食症の中でも、抑制型(Restricting Subtype)よりも過食、嘔吐を伴う患者に合併しやすいことが報告されています(Holderness et al., 1994)。

 ある前向的、長期的研究(Strober et al., 1997)で、物質使用障害は、拒食症と比較して過食症女性に約7倍多く合併していました。

 物質使用障害のない摂食障害者の、過食行動のあるタイプ(Binge-eating Subtype)と抑制タイプの拒食症患者を10年間追跡した調査(Strober et al. 1996)では、前者で50%、後者で12%の患者に物質使用障害が出現しました。

 物質使用障害患者では、拒食症より過食症の合併がより多く見られます。また過食行動のある拒食症患者は抑制型よりも一親等の物質使用障害患者を持つ可能性が大きい(前者で55%、後者で14%)という報告があります(Strober et al., 1996)。

 肥満過食症患者と正常体重過食症患者を比較すると、患者自身の物質乱用合併率は、前者で14%、後者で17%、家族の物質乱用合併率は、前者で45%、後者で67%でした(Alger et al., 1990)。つまり、正常体重過食症患者(嘔吐をしている患者が多い)の方が、物質乱用親和性が高いと言えます。


[ 摂食障害と物質使用障害を結び付けるもの] 

 衝動的な過食・嘔吐行動が、物質使用に先行してみられることが少なくありません(Holderness et al., 1994)。 衝動性(Impulsivity)が、過食症と物質使用障害を結び付けるとされています(Holderness et al., 1994)。

 また、人格障害を合併する摂食障害患者は、そうでない場合に比べて、物質使用障害を合併しやすいとされています(Braun et al., 1994)。

 思春期の一般人口(カナダの男女学生)の調査(Ross et al., 1999)では、無茶食い(binge eating)をする学生、とくに代償行為(自発的嘔吐など)をする学生は、すべての物質に関して、乱用傾向が高く、特に大麻乱用、タバコとアルコール以外の薬物の乱用の傾向がみられました。無茶食いをする人(binge eater)は、より重篤な、問題性の高い物質使用の傾向があり、自尊心が低く、うつに傾きやすい特徴がみられました。また無茶食いをする女性は、男性よりも、代償行為(自発的嘔吐など)をする傾向が高いが、無茶食い行動と物質使用障害の関係では、性差はありませんでした。著者らは、この調査結果に基づき、無茶食い症状があり代償行為をする学生は物質乱用防止プログラムの目標グループと考えるべきであろうと提案しています。


[ 摂食障害+物質使用障害合併患者の特徴 ] 

 アルコール依存症を伴う過食症では、人格障害(中でも境界型人格障害)を合併しやすいという報告があります(Bulik et al., 1997)。

 女性アルコール症患者を、摂食障害(主として過食症)の合併の有無で比較した日本の研究(鈴木ら、1993)では、摂食障害合併者の方が、若く、体重が少なく、境界型人格障害とうつ病の合併率が高いとされています。

 また、過食症と物質使用障害を合併する患者では、衝動性、気分変調、不安障害(特に社会恐怖とパニック障害)などが、物質使用を促進する要因であるということです(Lilenfeld et al, 1998) 。

 このほか、摂食障害と物質使用障害合併者では、うつ病とPTSDの合併も考慮すべきだとされています(Dansky et al., 1998)。


[ 摂食障害+物質使用障害合併患者の治療 ] 

 物質使用障害に摂食障害を合併する患者は、物質使用障害のみの患者より治療的指示に従い難く、より長い入院治療が必要でした(Westermeyer et al., 1999)。

[ 遺伝研究 ] 

 摂食障害と物質使用障害は、合併しやすいし、家族内集積傾向がみられますが、遺伝学的研究では、両者は独立して、子孫に伝達されるとされています(Schukit et al., 1996)。


[ 神経生物学的遺伝研究 ] 

 オピオイドはヒトの食欲を高め、オピオイド拮抗物質は食欲を減退させることが基礎的研究で明らかにされていますが、摂食障害患者では、オピオイドの異常が報告されています。過食症患者で、血漿中と脳脊髄液中のベータエンドルフィン濃度が低く、拒食症患者では脳脊髄液中のベータエンドルフィン濃度が低いことが知られています。一方で、オピオイド拮抗物質であるモルフィネは、アルコール消費を高めることが示されています。このことは、摂食障害とアルコール症の両者にオピオイドが関与している可能性を示しています。

 このほか、神経伝達物質であるドーパミンやセロトニンが摂食障害と物質使用障害の両者に関与する物質として注目されています。

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